コラム

自分の宝物を知っていますか

 1~2か月ほど前のことです。平日の18時前、日がすっかり長くなりました。私は、公園近くの登り坂を歩いて帰宅している最中でした。見ると、白いポロシャツに紺色の半パンの制服姿で小学低学年の男児が、4~5人ほど公園に集まって遊んでいます。公園のベンチには、ランドセルが1つか2つ、ポンッと置いてあります。「放課後、自由に遊ぶ子どもたちをみかけることが、少なくなってきたなあ。」と感じ、思わず低学年の男児たちに関心を寄せました。公園と道路の間には、大人の背丈より少し高いフェンスがあります。男児たちは、のんびりと遊び感覚で、フェンス沿いに坂道を上がっています。それぞれ穏やかな表情で、ひとしきり遊び込んだ様子の表情をしています。

 「あっ、トカゲだー。」坂の一番上から、ある男子の大きな声が聞こえました。「トカゲっ!」 どうやら、声の主である彼は見事にトカゲを素手で捕まえることに成功したようです。「トカゲ、やった、トカゲ!!…。」 私は(そっかあ、よかったね。)と胸の中でつぶやきました。

 彼のはしゃいだ声が一旦止まりました。「……ぼく」彼は少し間を開けて、静かに口を開きました。「ぼく、ちょっと…家に…戻ってくる。」 (どうしたのかな?)と思いつつ、私は坂道を歩きます。坂道の上に彼が居ます。彼は言いました。「ぼく、トカゲ大好きなんだ。」 さらに続けて……「カクレンボは、もうどうだっていい!トカゲをせっかく捕まえたから……、家に行ってくる!!」再び大きな声で。これは宣言です。私は仁王立ちをしている彼の姿を捉えました。彼の白いポロシャツは、すっかり土ほこりで薄茶色に染まっています。他の男児は、まだ坂の下側でフェンスに手指を入れたまま、首だけ傾けて彼の方を見ています。私と同様、あっけにとられながら聞いている様です。

 高らかに宣言し終った彼は、動きがほとんど止まったままの他児や、たまたま居合わせた私に見送られながら、家に戻っていきました。

 トカゲを見つけた彼は、それまで、友だちとカクレンボ遊びを楽しんでおり、遊びのメンバーであることも、充分認識していただろうと推察されます。しかし、「何よりも、自分にとって大切なもの、トカゲをみつけてしまったのだから。」という宣言を堂々とし、自らメンバーを抜けていきました。

 この突拍子もない行動は、低学年だからこそ出来たのでしょう。

 自分にとっての宝物を知っている、自分の気持ちを自分で明確に掴んでいる彼の言葉は限りなく爽やかでした。私自身、「自分にとって本当の宝物は何だろう。」と思いました。

 あなたにとって、かけがえのない宝物は、一体何でしょうか。