当時、ある新たな発達支援のスキルに関する研修会に参加した際に、講師の先生がおっしゃった、印象的な発言があります。「コミュニケーション支援のポイントを一言述べるとしたら、それは共同注意に尽きる」という言葉です。
共同注意とは、2人の人、例えば幼児と養育者が、同じ対象物や事象へ一緒に視線や注意を向けており、そうであることを互いに認識している状態をいいます。
保育や発達支援で働いている方々にとって「共同注意」という言葉は、決して真新しい言葉ではありません。これまでに皆さんも何度か耳にされた言葉だと思います。私も同様でした。「新たな支援スキルを知りたい!」の気持ちが強かった私には、とても意外であり、印象づけられました。あらためて共同注意に着目する機会になりました。
人は、さまざまな出来事を経験した際、よく、その経験談を身近な他者と共有しようとします。他者と共有する事は、コミュニケーションの中核部分といえるでしょう。
コミュニケーションの基盤は、未発語である0歳児の頃から、視線が合う、見つめ合う、微笑み返し、表情を真似する、くすぐり遊び、イナイイナイバー、指さしなど非言語的な関わりを通じて、少しずつ作られています。そして1歳過ぎ~1歳半頃には、より移動運動が自由になり、自ら探索し新たな発見を重ねていきます。お喋りは未だおぼつかないですが、養育者が「随分やりとり出来るようになってきたなあ」と、手ごたえを感じられるようになってきます。
共同注意としての具体的行為としては、関心を抱いた対象や共有したい相手を交互に見る、見せる、手渡す、指さしをする等あります。指さし行為自体は、1歳より前から始まり、傍目にも分かりやすい行動です。
指さしは機能に応じて、①興味・発見の指さし ②要求の指さし ③叙述の指さし ④応答の指さし、のように、幾つかの種類に分けることが出来ます。
日々の保育の中で、「今の指さしは、どれにあたるかな?」と、ちょっと考えてみると、お子さんの発達を知る、つまりコミュニケーションの力を理解する手がかりになります。
③叙述の指さしとは、自分が関心を持ったある事物を、傍にいる人(多くは養育者や保育者)に伝え、傍にいる人も共通の関心をむけることを期待するものです。お子さんは、指さししながら、対象物と傍にいる人物を交互に見ます。交互にみているかどうかが、大事です。「対象物⇒他者⇒(再び)対象物」あるいは、「他者⇒対象物⇒(再び)他者」のように交互に注視していれば、いわゆる「自分―他者―物」の3項関係、共同注意が成立しているだろうと思われます。
④応答の指さしとは、例えば他者から「○○はどれ?」と聞かれた事に、答える意味合いをもつ指さしの事です。1歳半ごろには、③や④の指さしも見られるようになってきます。
この時期のお子さんと過ごす方には、ぜひ共同注意の機会を沢山持ってほしいと、願っています。
もしも仮に、私が保育施設で過ごせるとしたら、1歳児クラスをためらわず希望します。「お子さんと遊びながら、共同注意を存分に楽しみたい!」という夢があります。なぜなら、この時期のやりとりが、お子さんにとって、コミュニケーション力の礎になり、成長につながる可能性があるからです。そして、この時期のやりとりはシンプルで、子どもと大人どちらにとっても楽しい体験です。
もちろん保育士には、お子さんと遊ぶ以外のお仕事が山ほどあります。多忙です。でも共同注意を行うために、必ずしも特別な準備をする必要はありません。
普段の保育を、意識して見渡してみると、そのチャンスがあちらこちら沢山あることに、きっと気づきます。既に気づいておられる先生方も大勢いらっしゃることでしょう。
今行っている保育の中で、お子さんが楽しく興味を注いでいる対象物(多くは遊び、食事など)と、お子さん自身に視線を注ぎ、そのお子さんの思いを代弁するような、ごく簡単な言葉と温かな笑顔を注いでほしい、それだけが私の願いです。
共同注意を繰り広げること。それは、日々の生活の営みの中で、これからの成長を支える根っこづくりなのです。
いつも3歳未満児をみて下さっている先生方に、感謝をこめて。